前回のあらすじ:溜まったマイルとポイントを使って彼女の梢を豪華海外旅行に招待した陸マイラー翔。成田空港のANAラウンジで旅の計画を立てて搭乗口へと向かう。
登場人物
- 大地 翔:趣味はネットサーフィンと旅行。2年前から陸マイラー。
- 梢:2歳上の翔の彼女でしっかり者。
- 山下:この道20年のベテラン客室乗務員
ANAラウンジを出た二人は優先搭乗口を通って二人は機内へ進む。「ねえねえしょうちゃん!今から乗る飛行機の席ってさ…」と、梢はどこか気まずそうな、言いにくそうな雰囲気で翔に切り出した。今から楽しい旅行の始まり、と一緒にワクワクしていたはずの梢の変化に翔は気づいたが、何事もなかったのように「ん?」と答えた。
お互い目を見合わせて一瞬の沈黙の後に梢が口を開く。
「スタッガード、って言うんでしょ?」
「えっ……」どうして梢がスタッカードという言葉を知っているのであろうか?普段飛行機にも乗らなければビジネスクラスにも乗ったことがないはずなのに……まさかもう他の男と・・?!と翔の妄想は膨らむばかり。そんな不安に思う翔の様子を全く気にする様子もなく、梢は続けた「びっくりした?実はね私 乗る前に勉強してきたの。しょうちゃんが私のために色々準備してくれてるから私も準備しなきゃって思ってね。まあ、、荷物は持って来すぎたけど。」と、 微笑んだ。それを見て翔は安心し、思わずにやけてしまうのだった。「でもしょうちゃんどうしてスタッガードっていうの?なんか強そうな響きだけど」
梢はそういう名前ということは勉強していたけどそれが何なのかわかっていなかったのだった 。翔は急に男らしい声になる。得意げになると声が変わるのが将の癖だ。
「それはね、スタッガードは互い違いっていう意味なんだよ。 シートを互い違いに並べることによって、全席通路側そして全席フルフラットを実現したんだ。今 ANA が誇る一番いいビジネスクラスのシートなんだよ」
と得意げに説明をした。別に全日空の人でも何でもないのに我が物顔で説明する翔を「またいつものか」と思いながらも遮った。
「でも互い違いってことは私と翔ちゃんのあいだが開いちゃうってこと?もっと言えばテーブルの下って後ろの人の足が入るんだよね?私と翔ちゃんの間に他の人がいるのかぁ。」
こずえはちょっと残念そうな顔を見せた。しかし、今日のために念入りに準備をしてきた翔も、もちろんその点も考えていた。むしろ、このシートに座りたいがために行き先を決めたようなものだった。
「実はね今日乗るA380のスタッガードシートは、二人でもちゃんと隣に座れるようになっているんだ。確かに今までの B787-9などに使われていたスタッガードシートは全ての席が互い違いだったから梢の言うとおりだった。でもカップルやファミリー利用が多い路線には、ちゃんと隣に座れるようなタイプができたんだよ」
そう話しながら二人はボーディングブリッジを渡りきった。機内へ入った瞬間に見えた、スタッガードシートが並ぶ美しい光景に梢は息を呑んだ。「わーすごいビジネスクラスってこんなに広いんだね。私いつも LCC ばっかりだから初めて見るよ。えーっと、私達の席は、どこかな?」とキョロキョロする梢の横で翔は感慨に耽っていた。―俺も2年前までは LCC しか乗ったことなかった。でも陸マイラーになってからは毎月のようにビジネスクラスに乗っている。そうして最愛の梢と一緒にビジネスクラスでの旅行をプレゼントすることができた。
「えーっと、あったあったここだよ俺らの席」
「あ、ほんとだ!しょうちゃんの隣に座れるようになってる!すごーい!足を伸ばしても届かないよ。画面もすごく大きいんだね!私の家のテレビより大きいかも!」
初めてのビジネスクラスにはしゃぐ梢を見て、翔は2年前初めてビジネスクラスに乗ったことを思い出した。―あの頃はとても背伸びしている気がして、すごく緊張していたのに俺も慣れたもんだ。
「翔様、本日もご搭乗ありがとうございます。私、担当させて頂きます山下でございます。本日はよろしくお願いいたします。」と、ビジネスクラスならではのサービスであるチープパーサーからの挨拶が来ても、翔は慣れた口調で答える。
「はい、いつもありがとうございます。よろしくお願いします。」
「梢様、本日もご搭乗ありがとうございます。」
「あ、は、はい!」機内で挨拶されるのがはじめての梢は思わず上擦った口調で答えてしまった。
「ウェルカムドリンクはシャンパンにいたしましょうかそれともオレンジジュースにいたしましょうか?」
「シャンパンでお願いします」
実は翔はシャンパンの味なんて分かっていない。でも機内でシャンパンを飲むのがなんだかかっこいいと思っている。梢も普段シャンパン何か飲まない翔がシャンパンを頼むのを見て翔の思いを察したのか、さっきの緊張が嘘のように落ち着いた声で「私もシャンパンでお願いします」と注文した。実は本当はドキドキしているのだが、こういうところで大人の対応ができるのが梢だ。
「じゃあ俺らの旅の始まりに乾杯」
「はーい、乾杯」
シャンパンをぐいっと飲み干した梢は、あまりの嬉しさにに抱きついてキスをした。おいおい、こんなところで皆見てるよ・・・と思ったがここはビジネスクラス、他の席からは見えにくいようになっているんだった。と安心した翔だったが、先ほどの客室乗務員がこちらを微笑ましく見ているのを見て顔を赤くするのであった。
俺、陸マイラーになって良かったな。と、旅の始まりにワクワクしている梢を見ながら離陸する飛行機で翔はしみじみと考えた。思えば2年前のあのとき、マイルゼミに登録して陸マイラーから人生変わったな……。
ビジネスクラスでは搭乗直後に担当の客室乗務員より挨拶と感謝が伝えられ、客室乗務員との距離がエコノミークラスに比べてとても近くなっており、きめ細かいサービスを受けることができます。上着を預かったり、荷物を上に上げたりするのもすべてやってもらうこともできます。離陸までの時間にはおしぼりとウエルカムドリンクが提供されることが多いです。
続く!?