大阪府八尾市の住宅街にぽつりと佇む珈琲店「ザ・ミュンヒ」。
そのお店にはスプーン1杯で1000円というコーヒーもあれば、抽出に1時間以上かけるネルドリップコーヒーもあるということです。
どこかの記事でそのコーヒー店を知ってから、いつかは行こうとずっとグーグルマップに星をつけていました。
そして、ついに大阪で1日時間ができたので一人でザ・ミュンヒに訪問してきました。
行きたいと思っていた方も、スプーン1杯で1000円のコーヒーって何!?と思った方も、読んでみてほしいです。
サクッと読める目次
八尾の住宅街を走っていると突如現れる「ザ・ミュンヒ」
ザ・ミュンヒは本当に住宅街の真ん中にあります。
最寄り駅は近鉄「高安駅」という駅らしいのですが、徒歩で15分以上かかる立地で「なぜこんなところで?」と疑問が生まれます。
マスター曰く、約40年前(1981年)に親が住んでいた実家でコーヒー屋を初めて以来、ずっとこの場所でやっているそうです。
昔はバイクブームもあり、バイクに乗った若者がコーヒーを飲みに集ったということです。
今は私のように、物好きなコーヒー好きが訪れる知る人ぞ知るお店となっています。
ちなみに営業時間は朝6時から午前3時。
書き間違えではありません、21時間営業をマスター一人で行っています。
お店の名前は世界に5台しかないバイク「ザ・ミュンヒ」から。
世界にある5台のうち、日本にはこの1台しかないそうです。
マスターの愛車として、店内に飾られています。
「ザ・ミュンヒ」でのコーヒー体験は驚きの連続
お店の前に車をとめて、恐る恐る「すみません、やってますか?」と声を掛けると奥からマスターが出てきました。
扉から店内を覗くと、どうやら他にお客さんはいないようです。そして、お店の名前にもなっている名車「ザ・ミュンヒ」が置かれているのも見えます。
駐車場は店の裏にあると教えてもらい、車を入れてから入店。
「どこから来たの?」「ここは初めて?」とマスターが目の前に座って話しかけてきます。
「コーヒーの仙人」と紹介されていることもあるので、気難しい方だったらイヤだな、とちょっとビビってたのですが、笑顔で安心しました。
「普段は東南アジアで小さい会社をやってまして・・」と話すと、最近はタイとかベトナムとか経済がすごいらしいな、と話を膨らませてきます。
なんだかどんな話題にも対応できるようなマスターの知識の深さを感じて、入店3分でただ者ではない、と思ってしまいました。
ザ・ミュンヒには香港やシンガポールからのお客さんも来るそうで、1杯10万円のコーヒーなどをオーダーしていくそうです。
Youtubeで1000ドルのコーヒーとして英語で紹介されており、そこから外国人のお客さんが来ているとのこと。
ちなみに、10万円のコーヒーのおかわりをオーダーされたが、数に限りがある為断ったそうです。
メニューには予想していたよりも多くのメニューが並んでいました。
なんと、4ページもあります。
「伝説と言われているコーヒーを飲みにわざわざ来ました、なので、おすすめをお願いします」と伝えると3つ選んでくれました。
ちなみに、このメニューの紙は記念に?持って帰ることができます。
注文をするとマスターは高級食器の並ぶキッチンの奥に消えていきました。
ここにはマイセン、バカラという世界を代表する器が並んでいます。
器に詳しい人がみたらきっと驚くようなコレクションなんだと思います。いくつか値段を聞きましたが、正直ビビりました。
コーヒーが来ました。
ネルドリップになんと150gものコーヒー豆が入っています。
この「超デミタス」コーヒーは抽出に50分かかるということで、既に抽出が終わっているコーヒーをその間に頂くことにしました。
歴史のある美しいカップに入っていて、触るのが怖いほどです。
中を除くと、まるでたまり醤油のようなドロッとしたコーヒーが入っていました。
一口、、、というよりも、くちびるについたコーヒーを舐めるようにしていただくと、
こんなコーヒーがあるのか、と驚くような、文字通り想定外な味がやってきます。
ゴクゴク味わうコーヒーでは決してなく、とても少量の中に沢山の香りや味が詰まっているようなコーヒーです。
大量にコーヒーが入れられたネルドリップにお湯がためられていますが、まだ1滴も落ちてきません。
コーヒーを待っている間に、オーナーの田中さんに色々とお話を聞かせていただきました。
この記事の後半で紹介します。
雑誌の取材も多くあるようで、先日出版されたばかりだという雑誌を紹介してくれました。
死ぬまでにやりたいこととして「スペシャルヴィンテージコーヒーを飲む」とここのカフェが紹介されています。
と、マスターとの話を楽しんでいると、ついに最初の1滴が落ちました。
ここまでくれば、後は数分でコーヒーの出来上がりです。
ポタポタと落ちてくるコーヒーから良い香りが漂います。
できました、想定外コーヒー!
コーヒーだけでいただき、その次に砂糖を入れていただきます。
このお砂糖もものすごいこだわりの品だったりします。
もちろん、このカップも超高級品だとか・・・。絶対に落とせない。
途中から生クリームを入れると、更に違った味わいを楽しめます。
この生クリーム入り珈琲の名前は「シルクロード」。
更にこのコーヒーから2杯目を抽出していきます。
いわゆる「2番コーヒー」ですが、これだけ濃いコーヒーの2番煎じなのでそれはそれで美味しいのです。
しかも、いただくカップは30万円のセーブル。
購入時にそのまま値札ももらってきたと話すマスター、どこまで本当かわかりませんが高級な器であることは間違いない。
ドロッとしたコーヒーを、先ほどよりも多めに口に含んでぐいっと飲むと体中にコーヒーが行き渡るような錯覚を覚えました。
美味しいとか美味しくないとかではなく、コーヒーの概念をものすごく広げてくれるようなコーヒーでした。
また飲みたいか?と聞かれると、飲みたいです。
最後にいただくのが1杯2000円のコーヒー。
コップ1杯なら10万円というお値段でとても手が届かないのですが、スプーン1杯ならなんとか手が届きます。
マスターが奥の冷蔵庫から樽に入ったコーヒーをもってきました。
樽には平成7年と書かれています。
23年モノです。
小さなコックを開けて、スプーンにコーヒーを注ぎます。
今まで頂いたコーヒーとも全く違う、とろみのある液体がスプーンに注がれていきます。
きれいにスプーン1杯いれていただきました。
ちょっとこぼれている分はサービスでしょうか。
スプーン1杯なのでペロッと舐めてしまえばすぐに終わってしまうのですが、何度も何度も、少しづつ味わうようにいただきました。
「え、これがコーヒー!?」
驚くほどのフルーティーな香りと、心地よい酸味が口の中を駆け抜けます。
まるでワインのように、樽の木の成分がコーヒーに溶け出しているそうなのですが、この味は理解できませんでした。
理解できない、不思議な、しかし確実に美味しいという不思議な体験でした。
頂き終わった器を見ると、そこには菊の紋章が残されていました。
この器のストーリーは、ぜひザ・ミュンヒでマスターの田中さんに質問してみてください。
これだけたっぷり楽しんでお会計は7,100円。
これを高いと見るか安いと見るかは分かれそうですが、私はまた訪れたいと思いました。
コーヒーを待つ時間にマスター田中さんの半生を語ってもらいました
マスターは昭和18年生まれの75歳。
高校生時代から詩をかきためており、今も当時の詩集を店内に保管しています。
もちろんすべての詩集は店内で読むこともできます。
東京の大学に進学した後は学生運動に力を入れすぎたために卒業できず、その後は東京国分寺の牛乳配達店で働き出したそうです。
大卒の給料が2万円という時代に、歩合制の牛乳配達で月15万円を稼いでいたというので、マスターのストイックさには驚かされます。
その後、大阪に戻ってきて自ら牛乳店を創業し、朝から夜まで文字通りバイクを走らせてかなり稼いでいたそうです。
当時の日本では若者を中心にバイクブームが起きており、店名にもなった「ザ・ミュンヒ」や「バンビーン」といった、世界にも数台しか無いバイクを個人輸入して購入。
どちらも世界最速を目指して開発されたバイクで、バンビーンはロータリーエンジン搭載のバイクだそうです。
バイクにロータリーエンジン搭載のものがあるとは、初めて知りました。
「世界最速」のバイクでツーリングを楽しんでいたそうです。
その後、ご両親が奈良にマンションを購入したのをきっかけに、この八尾の建物でコーヒー店を始めました。
当時はバイク乗りが喫茶店に集まって語らう文化だったこともあり、どこの喫茶店もバイクに乗った若者で賑わっていたようです。
その頃からこだわりの美味しいコーヒーを他よりも高い価格で提供していたようなのですが、
「喫茶店は斜陽産業になる」
と考えたマスターはどこにもないコーヒーを作ろうと思い、「超想定外コーヒー」という長時間抽出コーヒーを作りました。
そして、そのコーヒーの一部を樽に入れて熟成したものが、スプーン1杯2000円の20年熟成コーヒーです。
コーヒーと同じく陶磁器にも興味を持ったマスターは世界中の素晴らしい器を集め始めました。
お店の中にはウン十万円という値段のついたマイセン、バカラ、古伊万里などなどがびっしりと並べられており、全てのコーヒーはそういう器で頂くことができます。
上にも書きましたが、コーヒーを飲もうとしたときに「その器は30万円でね」と話しかけてきて、一瞬手が震えました。
マスターは今も大のバイク好きで、90ccのカブや125ccのホンダにまたがり、美味しいコーヒーがあると聞けば仙台でもどこでも駆けつけるそうです。
もちろん、展示されている幻の名車「ザ・ミュンヒ」も常に乗れるように整備を行っていて、車検もナンバーもしっかりと付いていました。
お店の前に停めてある、新しく買ったというバイクを「これが本当に良いんだよ」と見せてもくれました。
私も昔はバイクにテントを積んで日本を走っていたので、バイクで走る楽しみはものすごくわかっています。
それでも、日本全国どこでも、1泊や日帰りで行ってしまうと語る田中さんはどれだけ走るのが好きなんだろうと驚きました。
もう一度いいますが、1943年生まれの75歳ですよ。
「詩は読むポエム、コーヒーは飲むポエム」と田中さんは語ります。
しかし、このお店、そしてマスターそのものが「生きるポエム」であると感じました。
マスターは10年後でも20年後でも、お店を続けたいと語っていました。
また何年かした後に、さらに物語の進んだポエムを楽しみに行きたいと思います。
カーシェアのタイムズカーシェアが便利でした
ちなみに、ザ・ミュンヒは駅からもちょっと歩く住宅地の真ん中にあるのでアクセスが悪いので、大阪駅前からカーシェアのナイトパックで訪問してきました。
走り慣れていない大阪の道もカーナビがあるから無事にたどり着くことができました。
こういうときに、カーシェアって本当に便利ですね。
カフェ「ザ・ミュンヒ」
このカフェではマスターによる様々なお話を楽しむことができます。
コーヒーだけではなく、お店のストーリー、マスターの人柄、その全てがコンテンツだと楽しめる方であれば、間違いなく楽しめると思います。
この記事を読んで「ザ・ミュンヒ」に興味を持ち、足を運ぶ人が増えてくれたらと思います。